一般的な犬と猫の食事について

犬の食事については主に以下の5 つのポイントに留意して選ぶようにします。

1) 五大栄養素の原材料と栄養バランス
2) 成長段階(ライフステージ)に適した栄養素への配慮
3) 体の大きさに適したドライフードの大きさ(サイズ)とカロリー(エネルギー量)
4) 水分含有量と嗜好性
5) 健康状態や体質に適した対応

<主な犬と猫の食事の違い>

*犬は雑食、猫は肉食

犬は元々肉食でしたが、人との共存により雑食となりました。そのため肉食の猫に比べて炭水化物の必要量が大きく異なるのが特徴です。猫は炭水化物を消化できず、エネルギー源としてもほとんど利用できません。ですから猫は炭水化物を全く摂取しなくても問題がないのです。それどころか猫にとって炭水化物の多い食事は消化器系への大きな負担となることがあるので注意してください。

*タンパク質と脂肪の摂取割合は肉食性の猫が犬よりはるかに多い

猫はタンパク質と脂肪、犬はタンパク質と脂肪だけでなく炭水化物もエネルギー源として利用できます。(犬は人と同じ雑食で肉食系雑食と言われます。 )ですから猫の食事は高タンパク質・高脂肪なのです。

*タウリンが必要な猫

タウリンは猫の心臓、視力、免疫、脂肪の消化、繁殖など、健康のあらゆる側面に重要な役割を果たしています。猫はタウリンを体内で合成できないため、タウリンを豊富に含む動物性食品を食事に含めることが必要です。牛や鶏の心臓、青魚やマグロはタウリンが豊富で、猫にも与えやすい食品です。タウリンは熱の良いため、猫の食事を手造りで行う場合は注意してください。

*ビタミン A を作れない猫

ビタミン Aは、目の網膜で光を感じるために必要な物質(ロドプシン)の材料となります。暗い場所で物を見る能力(暗順応)を助けています。その他、皮膚や粘膜の健康維持、細胞の成長や分化、免疫機能の強化、繁殖機能の維持、抗酸化作用などに関係しています。ですから、猫用のフードには必ずビタミンAが適正に含有されているものを選ぶようにしなくてはなりません。また、過剰摂取は過剰症として関節通、骨異常、肝臓障害、脱毛、吐き気などの症状が表れます。(猫用フードを犬には与えてはダメな理由の一つです。)

*猫の「猫下部尿路疾患」 (FLUTD(Feline Lower Urinary Tract Disease) )に配慮した食事であること

尿中のミネラル(マグネシウム、リンなど)が結晶化し、尿道や膀胱に結石ができることが猫には多いものです。1歳から 6歳の雄猫に多い疾患です。高マグネシウムや高リンの食事が尿結石を誘発する可能性が高いためマグネシウムとリンのバランスを考慮した食事を選ぶようにしてください。またドライフードが主食の場合は尿が濃縮され尿結石の生成を助けてしまうことがあります。ですから水分不足には充分に注意してください。シュウカルシウム結石、ストラバイト結石などは犬にも見られる尿結石症です。

1)五大栄養素の原材料と栄養バランス

栄養素のバランスの重要性を理解してもらうときには以下で紹介する家のイメージを持ってもらうと分かり易いと思います。

<体の構成に必要なアミノ酸のイメージ>

動物の体を家に例えた場合、屋根・壁・土台で一軒の家が完成するとします。
そして、屋根・壁・土台のそれぞれが栄養素としてイメージしてみてください。もしくは体を作るアミノ酸としてイメージして頂いても良いでしょう。

それぞれの栄養素もしくはアミノ酸である屋根・壁・土台が1 個ずつ存在して、初めて家一軒が完成することになります。ところが屋根が100個あっても壁が100個あっても土台が1 個しかなければ完全な家は一軒しか建たないことになります。ですから、動物の体や細胞もバランスが大切ということです。偏った栄養素やアミノ酸だけでは、体や細胞を完璧に作り上げることがでないのです。栄養の中でも食べることでしか得ることのできない(自分の体の中では作ることのできない)必須アミノ酸や必須脂肪にも考慮したバランスの良い食事を与えるようにしてください。実はこれら犬や猫の必須となる栄養素が全て含まれているのが魚なのです。

2)成長段階(ライフステージ)に適した栄養素への配慮

犬の成長段階(ライフステージ)は以下のようになります。


また、猫の成長段階(ライフステージ)は、一般的に以下のように分類されます。

① 哺乳期・・・・生まれてから 1か月程度
② 離乳期・・・・生後2 か月から 3か月
③ 幼猫期・・・・生まれてから 12 か月以下の成長期
④ 成猫期・・・・1~7歳未満の維持期
⑤ 高齢猫期・・・7歳以上
⑥ 長寿猫期・・・17 歳以上の超高齢期

上記のように犬猫の成長段階を細かく分類することはできますが、『食事』を栄養の働きから配慮して考えるのであれば 3つに分けて考えると簡単に理解できると思います。

①大人になるまでの成長時期
・活発に運動する時期(脂肪、炭水化物)
・大人への体を作っていく時期(タンパク質、ミネラル、脂質)
・生理機能の調整が上手にできない時期~自己免疫システムが確立していない時期を含む
(タンパク質、ビタミン、ミネラル)

②大人になってから高齢になるまでの時期
・持病や疾病がなければ健康的に安定している時期

③高齢期以降の時期
・生理機能の調整がうまくできなくなってくる時期~自己免疫にも不具合が発生する時期
(タンパク質、ビタミン、ミネラル)

この 3つの時期の特徴に深く関係するのが後ろのカッコ内にある栄養素です。栄養素の働きは 3 つしかありませんから、成長段階ごとの特徴に必要となる栄養素に配慮をするようにしましょう。

例えば成長時時期には運動量が多いため、脂肪を多く含んだ少量でも高カロリーの食事が必要です。しかし、この脂肪の多い食事を大人になってからも続けていると肥満の原因になったりもします。大人になったら子供用のペットフードは与えてはいけない理由の 1つと言えます。また成長期には身体の構造の基幹ともなる骨格を作るわけですがやはりバランスの良いミネラルが重要です。犬と猫の骨格形成には、カルシウムとリンが最も重要で適切なカルシウムとリンの割合は、犬は1.2:1~1.4:1猫は1:1~1.2:1となります。他のミネラルとしては、マグネシウム、亜鉛、マンガン、銅も骨や軟骨の健康維持に役立ちます。食事でこれらを適切に補給することが重要であり、バランスが崩れると骨や関節の異常のリスクが高まります。それから、しっかりとした骨格にしっかりとした筋肉を付けさせるようにします。 (特に大型犬には重要です。)この時に貧相な食事ばかりを与えていると、しっかりとした身体になりにくいということになります。成長時期には栄養バランスがしっかり取れた食事やペットフードを与えることがポイントです。このような栄養面で充実したペットフードは高価かもしれませんが、後々のことを考えると充分に価値があるものではないでしょうか?

高齢期以降は持病や疾病がなくても、体内でのアミノ酸(タンパク質)やビタミンなどの産生能力が低下してくるものです。その結果、生理機能の調整に不具合が生じることになります。ですから、高齢になってから生理機能に関連するアミノ酸・ビタミン・ミネラルをサプリメントとして与えるのも良い方法となります。ただし、その場合は獣医師、動物看護士、愛玩動物看護士、トリマーなどの専門家の指導に従って与るようにしてください。

3)体の大きさに適したドライフードの大きさ(サイズ)とカロリー(エネルギー量)

犬の場合、小型犬と大型犬を比べるとその大きさは何十倍も違います。ですからドッグフードは粒の大きさが違うものが販売されています。さまざまな形状のものがありますが、犬が食べやすいい大きさの粒かどうかも確認すると良いでしょう。最近では超小型犬には超小型犬に適した大きさの小粒のものが販売されたりもしています。また噛まずに飲み込めることができてしまいそうなドッグフードもあります。

実は肉食系の猫や肉食系雑食の犬はしっかり噛みながら食事をすることはしないのです。群れで狩りをするオオカミを祖先とする犬は、群れの仲間に獲物を取られずに少しでも多く食べるため、最低限の大きさまでしか獲物の肉を嚙み千切りません。猫は単独で狩りをしますが、外敵に対して注意散漫となる食事は早く済ませて安全を早く回復したがります。ですから、猫も犬と同じように肉を飲み込める最低限の大きさに嚙み千切って飲み込のです。また、犬や猫の奥歯(臼歯)は平坦でではなく、肉を引きちぎるような凸凹した構造となっているのが特徴です。奥歯(臼歯)も噛み砕くのではなくて肉を引きちぎる構造になっているのです。

さて、『食べ物を飲み込むと消化に悪いのでは?』と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、犬や猫の胃酸は非常に強く、食べ物を細かく噛まなくても、胃でしっかりと消化できます。骨や大きな塊の肉も消化できる消化の仕組みとなっています。

犬や猫の 1日に必要なカロリー量についてですが、必要とするカロリー量は熱を放射する体表面積に比例します。通常は体表面積を割り出すのが難しいために体重から割り出すのが一般的です。以下は犬や猫の代謝エネルギー量(犬や猫が食事から摂取して利用できるエネルギー量のこと)の計算方法を参考として以下に明記しておきます。

犬と猫の 1 日の安静時エネルギー要求量から求める方法

( 70 × 体重 0.75 ) = RER(1 日の安静時エネルギー要求量) となります。
この安静時エネルギー要求量にイヌの状態や状況の係数を乗じて求めます。

<犬の場合>

・子犬(成長期):RER × 2~3
・成犬(通常活動量):RER × 1.6
・成犬(活動量が少ない):RER × 1.2~1.4
・妊娠後期:RER × 3
・授乳中:RER × 4~8(子犬の数による)

<猫の場合>

・子猫(成長期):RER × 2~2.5
・成猫(通常活動量):RER × 1.2~1.4
・妊娠期:RER × 2
・授乳中:RER × 2~6(子猫の数による)

4)水分含有量と嗜好性

①味
  甘味 ⇒ 犬は好むが猫は感受しない
  酸味 ⇒ 犬は一般的に酸味を好むが猫は拒絶反応が強い
  辛味(塩味) ⇒ 草食動物は適度の塩味を好むが、肉食動物では一定以上の高塩分は好まない
  苦味 ⇒ 犬や猫をはじめ哺乳動物は苦味を嫌う
  タンパク質 ⇒ 犬は全エネルギーの 25~30%、猫は40~80%を好む
  アミノ酸 ⇒ 犬は甘いアミノ酸(アラニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、ロイシン)を好む

②匂い
  嗅覚の役割は大きく嗜好性に影響を与えます。
  匂いの成分の多くは脂溶性で脂肪との関連が深いのです。
  脂肪 ⇒ 犬は特定の脂肪や脂肪酸に対する拒絶反応はない。
  猫は牛脂や豚脂などの動物性脂肪は好むが、ココナッツオイルのような中鎖脂肪酸の多い植物油は嫌う。高脂肪食は嗜好性が高く犬より猫で顕著。

③テクスチャー(歯ざわり・舌ざわり、口あたり)
  脂肪 ⇒ 脂肪含有量が50%を超えると猫でも食べなくなる。
    テクスチャーが適度であれば脂肪含有量に大きな差はない。(15%と 45%を比較した場合)
  水分 ⇒ 肉食系動物は水分含有率 60%~70%を好む傾向がある。
    (脂肪含有率10%で粉状のものより、脂肪含有率0%でも練り餌を好む傾向がある。)

④温度
  犬は温かいものでも冷たいものでも食べるが、猫は体温程度の暖かさを好んで食べる。これは腐敗肉食動物と新鮮肉食動物の違いと考えられる。

一般的に夏バテや疾病などにより食い付きが悪くなった場合に利用される方法としては、 ①水分量を増やす ②体温程度に温める ③匂いを付ける(温めると匂いがアップすることも。)の方法を利用します。水分アップには缶詰・セミモイストタイプ・モイストトタイプものを利用するようにします。(ドライフードをお湯に混ぜて与えると栄養分が流れ出てしまうことがあるため、水分含有量を多くした専用のものを利用するようにしてください。)

5)健康状態や体質に適した対応

病気や疾病があるような場合は、治療のために特別なペットフードを与えることを獣医師から指示されることがあります。これらは主に獣医師や動物病院での取り扱い専用のフードとして“療法食”“処方食”と言って販売されています。これらのフードは治療や病気予防を目的として販売されているのですが、病気や疾病が治ったら一般のフードに戻すことを忘れないようにしてください。獣医師から一般食に戻すようにとの指導があっても“療法食”と“処方食”を与え続けている飼い主さんは思いのほか多いのではないでしょうか? これは治療や病気予防のための食事ですから食べてくれないと困ります。その工夫として匂いが強くするなどして嗜好性を高めている場合があります。犬や猫にとっては美味しい食事になるわけです。当然、一般食よりも“療法食”と“処方食”を喜んで食べてくれるので、飼い主さんはついつい“療法食”と“処方食”を与え続けてしまうのです。この“療法食”と“処方食”を健康体なのに与え続けることで、栄養のバランスが崩れたり、治療のために配合された栄養素が過剰となって新たな病気や疾病の要因になってしまうわけです。健康なペットに“療法食”と“処方食”を与え続けることは絶対にやめましょう! また幼齢期用のフードは脂肪含有率が高いため、成犬用や成猫用のフードよりも嗜好性が高いのが特徴です。幼齢期用のフードを大人になっても与え続けることも肥満や病気の原因になるので、これも絶対に止めるようにしてください。

アレルギーなどの体質によって一般的なペットフードが利用できない犬猫がいます。最近ではアレルギーに配慮したペットフードも販売されるようになってきましたが、アレルギーなどの皮膚疾患が多くなってきたからかもしれません。 このような場合は必ず獣医師に相談して適切な指導を受けるようにしてください。

アレルギーの原因であるアレルゲンを調べてもらい、その原因をしっかりと認識しておくことも大切です。

“飼い主の良かれと思った行動”が疾患を悪化させてしまうことがありますから充分に注意をしてくださいね。