動物の腸内にいる菌には大きく 3つに分かれます。
それは善玉菌と悪玉菌、それに日和見菌の 3つです。日和見菌は普段は何ら悪さをしませんが、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れて悪玉菌が優位な環境になると悪さを働く悪玉菌になってしまう菌のことです。善玉菌と悪玉菌と日和見菌の一般的な比率は、人では 2:1:7が理想とされています。犬や猫では、善玉菌が約 20~30%、悪玉菌が 10~20%、日和見菌が50~70%とされています
※善玉菌は何が良いのでしょう?
善玉菌は以下のような 4つの良い働きをしてくれます。
1)食物の消化と吸収を助けてくれる
善玉菌は腸内で食べ物の消化を助け、栄養を効率よく吸収できるようにします。 通常は消化が難しい繊維を分解し、ビタミン B 群、アミノ酸、脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)を直接的もしくは間接的に作ります。
2)腸内環境を整える
善玉菌が作ったアミノ酸や脂肪酸などの栄養素が、腸内の働きを活性させ環境維持に貢献します。ですから、 善玉菌が多いと悪玉菌の増殖を抑えて腸内環境を整えることになるのです。腸内環境が良くなることは、①腸の働きを活発にする ②便秘や下痢を防ぐことになるわけです。
3)健康維持や病気予防に貢献する
①悪玉菌の発生を抑制(日和見菌を悪玉菌に加担させない)
善玉菌が活性して悪玉菌を抑制することで、アンモニアや硫化水のなどの有害物質の発生を防ぎます。
②リンパシステムを活性させる
体内に侵入してくる病原性微生物を撃退する免疫細胞のリンパの約70%が小腸の粘膜下にあります。(パイエル板と言います。 )腸内環境が良いことでこの器官が適正に働くことで免疫力が最適に保たれることになるのです。
③3つの脂肪酸が病気予防に貢献する
善玉菌は腸内にある免疫細胞を刺激することで免疫作用を向上させることが知られています。そして善玉菌が作り出す3つの脂肪酸が病気予防や健康維持に貢献することは少しずつ知られるようになってきました。
ⅰ)酪酸
腸壁を強化し病原菌や毒素が血液中に侵入するのを防ぐバリア機能を発揮する。 また、腸の炎症を抑えることで癌のリスクを軽減させることや免疫細胞を適切に働かせることで、自己免疫疾患やアレルギー反応を抑える効果を期待できる。
ⅱ)酢酸
腸内環境を酸性にする働きが大きく、 酸性が苦手な悪玉菌の増殖を抑制する。この働きが腸内環境を適正な状態に維持させる。 酢酸は腸内で直接的に病原菌を攻撃することで、 サルモネラ菌や大腸菌感染症などの予防に寄与する。 また、酢酸は血中の脂肪代謝を助け、肥満や人の生活習慣病(糖尿病、高血圧)のリスクを下げることでも有名。
ⅲ)プロピオン酸
プロピオン酸は腸から吸収されて肝臓で代謝される。血糖値をコントロールすることで、 人では2型糖尿病のリスクを下げること、肝臓でのコレストロールの合成を抑制することで動脈硬化や心疾患のリスクを抑制すること、酪酸と同じように腸の炎症を抑えることなどが期待できる。
4)セレトニンが腸で作られる(人の場合のメリット)
セロトニンは幸せ物質と言われ、幸福感や安定感をもたらす神経伝達物質です。 主にリラックスや満足感と関連しています。セロトニンが増えると、心地よい気分や幸福感が高まることいわれています。結果、トレスの軽減や精神の安定が期待されます。
※犬には犬の善玉菌、動物によって違います。
善玉菌と言われる代表的な菌として、乳酸菌(ラクトバチルス属、エンテロコッカス属、ペディオコッカス属、ストレプトコッカス属)、ビフィズス菌、酪酸菌が有名ですね。人の場合はビフィズス菌が多いのに対して、犬はビフィズス菌ではなく乳酸菌が多いのが特徴です。 犬の善玉菌は乳酸菌、ラクトバチルス菌、エンテロコッカス菌、ビフィズス菌などです。
猫の場合は乳酸菌、エンテロコッカス菌、ビフィズス菌、サッカロマイセス(酵母)、サッカロマイセツ菌などです。
~乳酸を産生する乳酸菌にはいろいろな種類があります。それぞれ属として表現されます。その属だけを言う場合は属名の後ろに菌として表記しています。~
※乳酸菌には丸い形の乳酸球菌と長細い形の乳酸杆菌の2種類があります。
乳酸球菌は免疫力向上や腸内環境改善に即効性があり、乳酸桿菌は消化促進や抗炎症作用で長期的な健康維持に有用性があることが既に分かっています。
※プロバイオティクスとプレバイオティクス
善玉菌を生きたまま腸に届けて活用することで腸内環境を改善するのがプロバイオティクスです。それに対して腸内環境を活性するために善玉菌を元気よくするためのエサを善玉菌に届けるのがプレバイオティクスです。このプロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を実行するのがシンバイオティクスと言ってより効果的な方法と考えられています。
※プロバイオティクス~生菌を腸まで届けよう!
多くの生菌は動物の消化器官を通過す途中で死んでしまいます。これを生きたまま腸に届けるにはマスキングを施し、消化器官を通過す途中でも死なないようにしなければなりません。技術的には可能ですがコストアップとなることが欠点です。生菌が大腸までに届く割合は1万分の1(1/10,000)とも言われています。胃酸のみならず殺菌作用のある胆汁が回腸あたりまで流れ込んできて生菌を殺してしまうこともあります。やっと生きたまま腸にたどり着いた生菌も腸に定着することが殆どないことも知られています。動物種や動物の個体ごとに活用している善玉菌は異なるのですが、個体にあった生きた善玉菌を数多く毎日取り入れることが健康維持や病気予防にはとても重要なのです。
※プレバイオティクス~善玉菌を元気にしよう!
腸にいる善玉菌を元気にして数を増やし、腸内環境を良好に保つことがプレバイオティクスです。そのためには善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖などを善玉菌に届けなければならないわけです。このエサの中にはプロバイオティクスで運ばれた生菌のうち死んでしまった菌も含まれます。死んだ生菌は善玉菌のエサとなって貢献するのです。驚きですね! プロバイオティクスで食べた1万分の九千九百九(9,999/10,000)もの生菌の死骸が善玉菌のエサとなることになるのです。これはプレバイオティクスをしていることになります。プレバイオティクスは悪玉菌を増やさずに、腸内環境を酸性にして善玉菌だけの数を増やすことも大きな特徴です。
※シンバイオティクス~プロとプレのダブル効果!
プロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に行うことで、より効果を高める方法です。最近ではシンバイオティクスを考慮したフードやサプリメントが増えているようです。
※猫への水分補給はしっかりと!
水分と運動は腸の蠕動運動を促進し善玉菌を活性化するのですが、猫は水分の摂取が少ない傾向にある動物です。また、猫は下部尿路疾患にもなりやすいので、充分な水分補給ができるよう常に新鮮できれいな水が飲めるようにしてあげてください。